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取り調べ可視化「カメラは被疑者ではなく、取調官にフォーカスを」弁護士らがシンポ
2019年09月30日 09時31分

警察や検察による取り調べを録音・録画する「取り調べの可視化」について考えるシンポジウム(主催・日本弁護士連合会)が9月13日、都内で開かれた。

シンポには元裁判官の木谷明弁護士や前田裕司弁護士(日弁連「取調べの可視化本部」副本部長)などが登壇し、録画の対象・範囲をすべての事件、過程に広げる必要性を訴えた。

警察や検察による取り調べを録音・録画する「取り調べの可視化」について考えるシンポジウム(主催・日本弁護士連合会)が9月13日、都内で開かれた。

シンポには元裁判官の木谷明弁護士や前田裕司弁護士(日弁連「取調べの可視化本部」副本部長)などが登壇し、録画の対象・範囲をすべての事件、過程に広げる必要性を訴えた。

●すべての事件・過程が「可視化」されるわけではない

捜査機関に取り調べの録音・録画を義務づける改正刑事訴訟法は6月に施行された。

取り調べは被疑者と捜査官しかいない「密室」でおこなわれる。そのため、不当・違法な取り調べにより、本当は「やっていない」のに虚偽の自白に追い込まれる場合がある。また、調書の任意性(本人の意思でなされた供述かどうか)を争ったとしても、取り調べの状況を明らかにすることは難しい。

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「可視化」の意義について、前田弁護士は(1)不当・違法な圧力をかけた取り調べがなくなること、(2)被疑者の供述の自由が確保されること、(3)供述の任意性、信用性が争われたときには事後的に供述の検証が可能となること、の3つをあげた。

ただし、すべての事件や過程が「可視化」の対象となるわけではない。

対象となる事件は、裁判員裁判の対象事件と検察官独自捜査事件のみだ。録音・録画の範囲も身体拘束後の取り調べに限定されている。つまり、逮捕前の任意同行中の取り調べや在宅事件は録画の範囲外となる。

●DVD(録画)がないところで起きる虚偽の「自白」

このため、対象とされている範囲外の過程で虚偽の自白が起きる可能性はある。

2012年12月、広島市の老人介護施設で火災が発生し、寝たきり状態だった80代の女性入所者が焼死する事件が起きた。広島地裁は、建造物等以外放火、殺人と別の窃盗の罪に問われた介護福祉士の女性に対し、「自白の信用性に疑問」があるとして、建造物等以外放火、殺人については無罪を言い渡した(広島地裁2014年7月16日判決)。

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女性の弁護団の1人を務めた芥川宏弁護士によると、女性は任意同行されて取り調べを受けたが、その間のDVD(録画)はなかったという。

「(女性は)まったくDVDがないところで自白をさせられています。検察官が調べたDVDはありますが、検察には『見えない』警察段階でガッチリ固められた後のものになります。

女性がところどころで涙を流す場面がありましたが、なにも知らなければ、重大な犯罪を悔いて涙を流しているように見えてしまいます。映像があるところだけ見ると、犯人であるかのように誤解されてしまう」(芥川弁護士)

●さまざまな要因が重なり「自白」に陥る

放火殺人などの重大事件であれば、法定刑も重くなる可能性がある。なぜ、本当はやってもいないのに、自白してしまうのか。

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介護福祉士の女性の自白を鑑定した村山満明教授(大阪経済大学・法心理学)は「日常では経験しない状況に置かれてしまう」ことを指摘。

取り調べでは話を聞いてもらえず、言う通りに合わせるしかなくなる状況に追い詰められてしまうという。女性の場合は、それだけではなく、アリバイを証言してくれる人がいなかったこと、窃盗への負い目など、さまざまな要因が重なり、自白に陥ってしまったようだ。

「(犯罪を)やっていない人は『自分がやっていない』ことは十分に分かっています。そのため、たとえ『やった』と言っても、裁判官ならば分かってくれると思っていることがあります。また、重大事件の場合でも、『やっていない』からこそ、死刑になるという実感や危機感がありません」(村山教授)

●逮捕された人は「真犯人かどうかは分からない」

登壇した弁護士からは、今後の課題として、「取調べの可視化」の対象や範囲を全事件、全過程に広げることを訴える声が相次いだ。

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加えて、木谷弁護士は「今、カメラは被疑者にフォーカスしています。しかし、『取り調べの可視化』はどんな風に取り調べがされているかを可視化することを目的にしています。むしろ、取調官にフォーカスしなければならないのではないか」とカメラの向け方について述べた。

前田弁護士は、EU諸国では取り調べに先立って、弁護人の助言を受けることができると説明。「日本でもぜひ実現したい。そして、取り調べに弁護人が立ち会える制度をつくりたい」と意気込んだ。

芥川弁護士は「まずは、虚偽自白によって、えん罪が起きうることを知り、理解を深めることです。弁護人としては、自分たちがまず被疑者・被告人の味方であること、検察・警察とはちがうことを分かってもらうということが必要です。裁判所に対しても、研修をおこなうなどして、理解をしてもらうべき」とした。

また、「無罪推定の原則」(有罪判決を受けるまでは、被疑者・被告人を「罪を犯していない人」として扱わなければならないという原則)があるにも関わらず、「逮捕された人は真犯人だという風土が出来上がっている」と問題視。「逮捕された時点では疑いがかかっているだけであり、真犯人とは限りません」と強調した。

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