「これ、Aくんがくれたんだけど…」
都内に住む会社員の女性に、小学6年生の娘が差し出したのは10枚のポケモンカード(ポケカ)。Aくんは小学校の同級生。特別に仲が良いわけでもありませんが、娘に好意を寄せている様子だったといいます。
ただ、娘はポケモンカードを集めていたわけでもなく、誕生日でもない時期の突然のプレゼントに戸惑っていたそうです。
ポケモンカードが高額で取引されることがあると知っていた女性は、念のため娘がもらったカードの種類をネットで調べてみました。
すると、10枚のうち3枚が1万円を超えるもので、中には2万円以上でやりとりされているものも。合計すると5万円以上になり、「小学生のプレゼントとしては高額すぎる」と女性は悩んでしまったのです。
結局、女性は娘にポケモンカードをすべて返させましたが、「もしも受け取ったままだったら、思わぬトラブルに発展していたのではないか」という疑問が残りました。
子ども同士で高額なプレゼントをやりとりすることには、どのような法的リスクがあるのでしょうか。日向一仁弁護士に聞きました。
●高額なポケカの所有者は誰?
──Aくんは保護者に断りなく、高額なポケモンカードをプレゼントしたといいます。この場合、カードの所有者は誰になるのでしょうか。保護者の許可なく友人に渡してしまっても問題はないのでしょうか。
Aくんがそのカードをどのように入手したかは不明ですが、もしお小遣いで購入したり、保護者が遊ぶ用に与えたものであれば、所有権はAくんにあると考えられます。未成年者であっても所有権は認められるためです。
ただし、民法824条で、親権者は子どもの財産を管理する権利を持っています。したがって、所有権がAくんにあったとしても、最終的には親の管理下に置かれることになります。
●娘にはポケカを返却する義務がある?
──では、高額なカードを受け取った娘には返却義務があるのでしょうか。
法律上、モノを「あげる」と言って、相手に渡せば、贈与契約が成立します。この契約が有効なら、所有権は受け取った側に移ります。
しかし、民法5条では、未成年者の契約は原則として、親の同意が必要であり、同意がなければ取り消すことができます。つまり、Aくんの親が贈与契約を取り消せば、所有権はAくんに戻り、娘さんはカードを返却しなければなりません。
●「返したくない」と拒否したら?
──もしも娘やその保護者が「返したくない」と言い張った場合、どんな問題が生じるのでしょうか。
この場合、Aくんの親から「贈与契約の取り消し」を理由に、所有権や不当利得に基づく返還を求められる可能性があります。返さなければ「だまし取られたのでは」と相手の保護者に疑念を抱かせ、思わぬトラブルに発展するおそれもあります。
子ども同士の高価なプレゼントは、家庭間の関係に亀裂を生じさせかねません。すぐに返却した今回の対応は、法的リスクを避けるうえでも妥当だったといえるでしょう。